コラム・対談 part.01
顧客ターゲティングに合わせた営業スタイルの違い

■ 顧客ターゲティングの大切さ

● 買ってくれやすい潜在顧客を探す顧客ターゲティング
営業戦略を考えるうえで欠かせない「顧客ターゲティング」。顧客ターゲティングとは、顧客を性別・年齢・趣味嗜好などから切り分けて、マーケティング活動を行う市場を決めていくことです。この顧客ターゲティングが重要であるという話は、どんなビジネスマンでも納得する基本中の基本といえます。
では、この顧客ターゲティングは誰が決めていくのか?というと、B to Cの消費者向けの商材ではマーケティングの部門が顧客ターゲットを決めていくことが多いでしょう。一方でB to Bの企業向けの商材では営業部門が顧客ターゲットを決めてリスト化していくということが増えてきます。どちらも、顧客ターゲティングを決める際には、買ってくれやすい潜在顧客が多いところを探して行くといくという視点が重要になってきます。
● 顧客ターゲティングを考えるときの3つのポイント
顧客ターゲティングを考えるときには外せないポイントがあります。それは以下の3つです。
【顧客ターゲティングのポイント】
ポイント1:マーケットの大きさ
ポイント2:商材との相性のよさ
ポイント3:営業リソースとの相性のよさ
◆ 顧客ターゲティングのポイント1: マーケットの大きさ
顧客ターゲティングの際にまず見ていくべきは、「マーケットの大きさ」です。営業する対象の企業が少なすぎてはそもそもの意味がありませんから、対象の市場に将来のマーケットが充分にあるのかという点を、しっかりと見ていく必要があります。例えば、北海道で売るよりも東京で売った方が、営業する対象となる企業の数は必然的に多くなりますよね。
◆ 顧客ターゲティングのポイント2: 商材との相性のよさ
次の顧客ターゲティングで見ていくべきことは、自社が展開する「商材との相性の高さ」です。お客さんの担当者は欲しいと思ってくれても、組織として導入しづらいなら、わざわざアプローチしても意味がありません。組織として導入しづらい例でいうと、会社ではパソコンを社員に貸与することが一般的です。ただ、店舗でシフトの形態で働くことが多い職種では、事務室が狭くて一人一台のパソコンを置く場所がなかったりします。その場合は、無理にパソコンを営業するよりも、スマホやタブレットの方が相性が良い=売りやすいといえます。これが商材との相性です。
商材との相性の良さをみる具体的な方法を紹介します。それは、自社の商材と合わせて捉えたときに、そのお客さんがアポイントが取りやすいか? 案件化をしやすいか?受注をしやすいか?といった点を見ていくことです。
アポイントの取りやすさでは、電話やウェブといった顔が見えない状況や資料を示さない中でも商材の説明を理解してくれやすいのか? と考えると分かりやすいでしょう。
案件化のしやすさでは、商材の価値を深く理解してくれるか? といったところを見ていきます。そもそも興味がなかったり、価値に共感してくれないと意味がありません。
受注のしやすさでは、顧客が意思決定をする際の進め方に自分の会社が合わせやすいかということを見ていきます。受注するために満たさなければならない資格条件があるといったことです。
◆ 顧客ターゲティングのポイント3: 営業リソースとの相性のよさ
最後に、顧客ターゲティングの際に見ていくべきは「営業リソースとの相性の高さ」です。リソースとは、ヒトの人数や能力、モノとしての提案資料やデモ、カネとしての使える販促必要、情報としての顧客への知識営業が使える資源全般のこと。これは要するに、売れない先にムダな営業リソースを投下しないということです。現状の営業リソースでできるのかどうか?という観点から営業のターゲティングを決めていくことになります。よくあるのはエリアの考え方です。 活動の拠点のないところでは営業をするのがムズかしいので、 そういった地域を外してターゲティングすることがあります。売れない先に無駄な営業活動をしても意味がないので、リソースの有効活用するためにそのターゲティングの精度を上げていくということになります。
● ターゲッティングから有効な「営業スタイル」が見えてくる
顧客ターゲティングのポイントをしっかりと押さえてターゲティングを設定したら、潜在顧客があぶり出されてきましたね。
そうしたら次は、そのターゲティングした顧客に合わせて売り方を磨いていく、つまり「営業スタイル」を合わせていくステップです。
営業には、アポ取り・提案・クロージングなど、シーン別にさまざまな営業スタイルがあります。例えばアポ取りでは、アポを取らずに飛び込みで訪問するというのも、立派な営業スタイルのひとつです。お客さんに電話をかけてもつかまりにくかったり、電話では本人に到達することがムズかしい場合は、こちらのほうが効率的な営業スタイルかもしれません。 最近では電話番号すら公開していない会社も多いので、そうなるとウェブサイトから問い合わせするという営業スタイルも出てきます。
さらに、営業の提案シーンでは資料の準備ひとつとっても、しっかりと資料を作っていた方が良いのか? 口頭で説明をした方が良いのか?といった営業スタイルも出てきます。ここでは相手のリテラシーの度合いや、どれだけ対応に時間を割いてくれるのか?などによって営業スタイルを変えていきます。
最後はクロージングの仕方です。 金額面で押して行った方がいいのか? しっかり納得感があるまで説明をし続けるのか、こういったクロージングの営業スタイルまでも、ターゲティングによって変わってくるんです。
冒頭で設定した顧客ターゲティングが、現場での営業スタイルを終始左右し、売り方を磨くときの判断基準になっていることが分かっていただけたと思います。
■ 規模の違いから顧客ターゲティングを分けるのが主流

● 多くの企業が行っている顧客ターゲティングの方法
■ スモール・ミディアムのSMBとエンタープライズのターゲティングの違い

● SMBとエンタープライズの違い1 案件規模
ここからはスモールミディアムを「SMB」、ラージを「エンタープライズ」として話を進めていきます。SMBとエンタープライズとの違いは、まずは案件規模です。SMBは小規模な案件が多く、エンタープライズでは大規模な案件が多いです。これは規模に応じているので当然でしょう。
● SMBとエンタープライズの違い2 案件難易度
次のSMBとエンタープライズとの違いは「案件難易度」です。SMBの場合は要件がシンプルで提案の準備が簡単、その反面、要件が複雑で提案の準備がムズかしいのがエンタープライズです。エンタープライズの複雑さ・ムズかしさの背景にあるのが課題の複雑性です。案件規模が大きくなるエンタープライズでは、必然的に解決しなければならない課題もさまざまな要素を含んでしまいます。そのためエンタープライズでは実際に解決策として提案するものがどうしても複雑化してしまうのです。
その提案をわかりやすくまとめていく必要があるので、どうしても提案のマインドが上がっていくというのがエンタープラズです。
● SMBとエンタープライズの違い3 リードタイム
では次に、一般企業では実際に、どんなふうに顧客ターゲティングを切り分けているかを解説していきます。中でも多くの企業が行っているのが「規模」から顧客ターゲティングを分ける方法です。規模・業種・業界で顧客ターゲティングを分けるケースです。
規模で顧客ターゲティングを分ける企業が多い背景には、わかりやすいということに加えて、 顧客の情報を入手しやすい=顧客のリストを作りやすいという理由があります。
規模で顧客ターゲティングを分ける場合には、さらにそこからスモール・ミディアム・ラージと大きく3つに分けます。さらにその中で「中小企業のSMB」と「大企業のエンタープライズ」に分けるケースが多いです。このときの分け方の基準としては、売上・従業員数・資本金といった形で自社の商材を考慮しながら希望を見極めていくことになります。例えば売上の観点から見ると、スモールはだいたい10億円ぐらいまで、ミディアムは10億円から1,000億円、ラージになると1,000億円以上という形になります。ちなみに、経済産業省の企業活動基本調査と中小企業実態基本調査によると、各カテゴリーに当てはまる企業の割合は以下のようになります。
<売上>
~10億円:3,219,113社
10~1,000億円:91,082社
1,000億円~:946社(各社発表資料より)
<従業員数>
~200名:18,468社(50名以上のみ)
200~1,000名:9,280社
1,000名~:2,432社
<資本金>
~1,000万円:N/A
1,000万円~5億円:25,941社
5億円~:4,239社
最後のSMBとエンタープライズとの違いは「案件リードタイム」です。SMBは関係する人が少ないため、意思決定までの時間が短いです。一方、エンタープライズは関わる人が多くなってくるため、意思決定までの時間がどうしても長くなります。
加えてエンタープライズでは案件の難易度が高いので、提案の準備や提案に対するフィードバックを反映するのに提案が長期化する傾向がある。これがエンタープライズのリードタイムが長くなる原因です。
● SMBとエンタープライズの違い4 顧客の意思決定
SMBとエンタープライズ、営業に関わる一番大きな違いといえば「顧客の意思決定」の違いでしょう。次の項で詳しく説明していきます。
■ 営業スタイルの違いを生む顧客の意思決定の違い

● 社長の決断次第のSMB、みんなで決めるエンタープライズ
◆ サブスク化による影響
SMBとエンタープライズの一番大きな違いである「顧客の意思決定」には、先ほども言ったように、選定に係る関係者の数が影響しています。SMBではオーナー社長が選定の場にいることが多く、社長の決断次第ですぐに決定される可能性が高いです。
一方でエンタープライズの場合には、社長の決定で決まることはなく組織としての決定となります。難しい言葉で言うと、内部統制が厳しく問われます。その理由のひとつが、エンタープライズには上場している企業が多いためです。内部統制として稟議システムが導入されていることがあり、このプロセスに沿って意思決定がなされていくのです。よってエンタープライズでは、意思決定のプロセスに関係者がすべて関与していることになるため、必然的にエンタープライズでの意思決定プロセスは長く複雑なものになっていきます。
● ワンストップが効くのはエンタープライズ
さらにSMBとエンタープライズにおける意思決定では、期待する範囲の大きさも影響してきます。ピンポイントで解決してほしいのSMBに対し、あれもこれも複雑な課題を解決してほしいエンタープライズ。エンタープライズでは提案に求める範囲が広くなるため、関係する人も増え、それに合わせて提案する内容も大きく変わってきます。
だから、なんでもそろって一気通貫で解決してくれる「ワンストップ」という言葉やサービスが効く相手はエンタープライズです。一方のSMBにとってワンストップはムダな機能まで入っているという印象を与えてしまう場合もあるでしょう。刺さるメリットが違うので、どうしても営業スタイルを変わるのです。
■ エンタープライズにおける営業のムズかしさとは?
● ムズかしいエンタープライズの課題
これまでの営業では、エンタープライズのムズかしさがかなり際立っていました。そのため対エンタープライズでは、エンタープライズ向けにエース人材を配置するというのが営業組織での定番でした。何度も言っているように、そもそもエンタープライズが持ち込む課題は複雑で解決がムズかしいものです。それを自社の商材で解決できるという風に見せなくてはならない、だからエンタープライズにはエース人材を配置していたんですね。そしてそこが営業担当の腕の見せ所でもありました。 エンタープライズへの営業では、自社内の設計や製造、デジタルならばデザインと開発を巻き込んで顧客の要望に合わせたものを作っていくことが大変だったんです。
● エンタープライズは求める機能以外での条件が厳しい
さらにエンタープライズには、求める機能以外にも追加される条件があります。情報の取り扱いであったり、納品の方法の指定があったりします。 昔から慣習的に起こっているだけで、あまり合理性がないものもります。典型的なのは、デジタルツールであれば、非機能要件と呼ばれるセキュリティの条件や実際に使える時間を見る可用性といった条件がIT部門からつけられたりします。さらにエンタープライズでは、IT部門から具体的な要件リストが提示されて、それに合わせることが求められたりもします。
● エンタープライズは問題の発生時の補償の範囲も問われる
エンタープライズでは、求める機能・要件以外での契約条件の厳しさがあります。他にも何か問題があった際の保障の範囲を決めるための契約条件も非常に厳しく問われます。 最近では減りましたが、エンタープライズでは無制限の損害賠償責任を負わせてくる場合もあります。 自社が被った損害の考え方についても定義の範囲が広いことが特徴です。 法務部門の優秀さのあらわれでもありますが、しっかり契約書をチェックされ細かい本郷まで指摘をされるのがエンタープライズなのです。
● エンタープライズは難しい分だけ競合が少なく、受注のインパクト大
またエンタープライズでは、いろいろ求められるものをパズルのように組み上げて整理していかないと受注がムズかしいという部分もあります。 他方、エンタープライズでは苦労する分だけ対応できる企業が限られているので、競争が少ないというメリットもあります。そしてもちろん案件の規模が大きいので受注した時のインパクトも大きいのがエンタープライズの最大のメリットです。
■ 差がなくなりつつあるSMBとエンタープライズ

● ハードルが一気に下がっているエンタープライズ
ここまでに話したSMBとエンタープライズとの差が、近頃はなくなりつつあります。背景にあるのは、モノのサービス化。モノのサービス化により、初期費用がなくなったり、カスタマイズができなくなったり、契約条件の規約化が進むことで、 SMBとエンタープライズとの差がなくなりつつあります。
◆ サブスク化で初期費用が減り導入がしやすい マーケットの大きさ
差がなくなる結果として、最初の段階でかかる導入費用が少なくなり、投資規模としては部署内だけの稟議で終わる案件が増えています。 年度単位の費用で稟議の対象が決まっている場合には。 費用が分散されていくのが、サブスクの特徴なので。 稟議対象の金額を下回ることがでてくるのです。 稟議の対象とならないということは、 関係する人たちが減るということなので、それに合わせて 社内の様々な課題を整理したり、意見調整をするということがらなくなっているんです。
◆ 求めるスペックが固まり、無理難題をいう顧客は減っている
そもそもカスタマイズができないのでエンタープライズの難点であった要件面での複雑な交渉がなくなってきています。
あれも欲しい、これも欲しいと言っても今ある機能で対応するしかないのです。 それを求めるならば、高い費用を払って自分たち専用のツールを作るしかないです。 逆にこの機能しかないので、この範囲内でやれることを考えようと言う発想になりやすいということもあります。
◆ 契約面での無理強いもなくなる
規約という形になると、基本的には同じ内容をすべてのお客様に適応するので、変更がムズかしいという形になります。
そうなるとエンタープライズだからといって契約交渉をいちいちするということが必要なくなります。最後に契約条件が固定的になってしまったので、契約交渉というめんどうくさい作業もなくなりました。つまり、エンタープライズに対してこのサービスを購入するかしないかという交渉だけの話になりつつあるのです。
● ハードルが一気に下がっているエンタープライズ
こうなると、今までエンタープライズに対して提案ができなかったような企業でも提案をすることが可能になってきます。エンタープライズとの契約のハードルが一気に下がったのです。 もちろん全てがサービス化をされるわけではないので、こうした動きが一部に止まるのは確かです。 ただしデジタル化しやすい領域ではこうした動きが進んでいくでしょう。
■ エンタープライズよりもSMBの方がムズかしくなっている!?

● リテラシーのギャップを埋める必要がある
一方で、 担当者の カバーする範囲が広く、専門性を高めにくいSMBでは、提案側がその専門性のギャップを、力を入れてレクチャーをしないと購入判断ができなくなっています。業務以外での前提知識に差があったり、専門的に取り組んでいる人が不在だったりなど、業務と商材とのズレの部分を営業担当が埋める必要が出てきます。
● コロコロ変わる意思決定をフォローする必要がある
さらにSMBでは、選定の基準を社内でしっかり議論する時間が取りにくいです。そのため、不明確なため意思決定がコロコロ変わることがあり、ここも営業担当がフォローしていく必要があるのです。 前提知識の多いエンタープライズの方が提案がやりやすくなり、逆にSMBの方が提案をするのがムズかしくなるという事象が起き始めています。 難題が多く難しかったエンタープライズよりも、案件規模が小さく魅力度の低いSMBの方が提案がムズかしいということが起きているんです。
● 日本市場ではエンタープライズよりもSMBの方が攻めにくい
昨今グローバルでは、SMBの方が攻めやすいという認識が定着していて、SMBを先に攻略する企業が多いのが現状です。例えばアメリカの大手、セールスフォース・ドットコムはそのような形で伸びてきました。一方で前述の通り日本市場は、エンタープライズの物分かりが良くなってしまったために、逆にSMBの方が攻めにくいという市場になりつつあります。そのためターゲティングにおいて、まずはSMBという考え方が通用しにくいのも日本市場の特徴になっていくと思います。さらにその先では、そもそも「規模」というものをターゲティングの軸として使うということがなくなっていくのかもしれません。
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