コラム・対談 part.04
営業で成果を上げ続ける
仕組みのセールスイネーブルメント

■ セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)という言葉が営業の現場で浸透し始めています。セールスイネーブルメントという言葉自体は元々ありましたが、最近よく聞くようになりました。
セールスイネーブルメントは日本語で「営業力強化」を指します。先輩が後輩に対して実際の仕事を通じて指導する「OJT(On the Job Training:オンザジョブトレーニング」とは違い、セールスイネーブルメントでは、育成プログラムとして体系的な仕組みを整えていきます。そして今、このセールスムーブメントへの期待が国内で高まっています。
● セールスイネーブルメントは、単なる営業研修ではない

かつて日本企業の営業研修では、営業マンとしてのマナー研修や人事部が行う職種別研修のような内容が定番でした。中には経験則で売り上げを伸ばしている先輩の例を参考にするように促す研修内容もよくありました。
しかし、トップセールスが経験則を話す時代は終わりました。今求められているセールスイネーブルメントは、これまでのそういった営業研修とは一線を画すもので、どんな営業マンでも皆が同じように成果を出せるところまで仕組み化していくという点が、かつての営業研修と大きく違います。
知識やスキルを伝えて終わりではなく、それを網羅的に伝えた上で、営業部門として「成果を出し続ける仕組み」を作ることが求められる今の時代。だからこそ、セールスイネーブルメントが求められ、こんなにも浸透しているのでしょう。
■ 「行動」のデータからアプローチするセールスイネーブルメント
今の時代に求められる「成果を出し続ける仕組み」とは、つまり再現性を保つということです。
再現性を保とうとするときに問われるのが、どのお客さんにいつアポしたのか、いつそのお客さんが案件化したのか、いつそのお客さんにクロージングしたかといった営業マンの行動です。
セールスイネーブルメントのアプローチでは、こういった営業マンの行動を改善するためにデジタルツールを活用します。デジタルツール上に営業マンの行動をすべて記録し、そのデータを元に何ができているのか、逆に何ができていないかをコンサルティングアプローチとして見極め、解決策を練っていきます。
● セールスイネーブルメントのゴールは、成果として売上をアップすること

セールスイネーブルメントでは、成果としての売り上げ向上にとくに焦点があたります。そのため、セールスパイプラインの観点から成果を上げることがポイントになってきます。
セールスパイプラインとは、お客さんとなる候補が次のステップである商談まで行き、最終的に見積もりをどこまで出せて、契約を決めてくれるのかといったプロセスのことです。
セールスイネーブルメントでは、そのプロセスの中でお客さんがどこで落ちているのかを見極め、その抜け漏れをふさげば、基本的には業績が上がっていくという発想で改善をしていきます。
そのプロセスの中でもメインとなるのが、お客さんのアポイントをとれるかの「アポ化率」、その後実際に提案につなぐ「案件化率」、そしてお客さんから「君に決めるよ!」と決めていただく「受注率」です。
中でも最も重視されるのが、最後の「受注率」を上げていくことです。セールスイネーブルメントのアプローチでは、受注率をKPIに設定して、その達成率がどう動いているのかをメインに見ていきます。
そしてこのときに生きてくるのが、前記したデジタルデータです。行動の記録をフル活用して分析し、どうしたら達成率を高めていけるかを考えていきます。
■ セールスイネーブルメントの2つのアプローチ

セールスイネーブルメントの大きな特徴は、問題点が見えやすい→改善がしやすいというところにあります。担当者がどのお客さんに対してどんな活動をしたかがデジタルデータで記録されているから、分析がしやすいのです。
達成に向けたプロセスの途中で落ちるお客さんを減らしていこうとするときには、大きく2つの型があります。
①データ分析から入るプロセス型
プロセスのどこかの行動に問題があると考える方法
②提案内容から入るナレッジ型
そもそも提案している内容自体や情報の提供の仕方に問題があると考える方法
● セールスイネーブルメントアプローチ ①データ分析から入るプロセス型
①のデータ分析から入るプロセス型の場合は、行動のデジタルデータを分析していくことで達成率の向上を目指します。データを分析して、電話をかける数が少なすぎるならもっと電話をかけるべき、商談に行く回数が少なすぎるならもっと商談にいくべき、という感じで、個々の行動を見ていきながら対策を練っていきます。
● 日本ではデータ分析から入るプロセス型が主流
日本のセールスイネーブルメントでは、このデータ分析から入るプロセス型が主流です。データ分析で代表的なツールは「SFA/セールスフォース」です。SFAとは、セールスフォースオートメーション(Sales Force Automation)の略で、営業の行動を全部記録する営業支援システムのことを指します。このSFA/セールスフォースを導入して行動量を把握し、改善策を立てていくというパターンが一番多いようです。
● セールスイネーブルメント SFAを提供する日本企業
SFAのクラウドアプリケーションやクラウドプラットフォームを提供する代表的な会社に、セールスフォース・ジャパンがあります。ほかにも、アールスクエア・アンド・カンパニー、マジックモーメント、ナレッジワーク、マツリカなどの会社が有名です。
これらの会社では、セールスフォースのようなツールを自分たちで持っており、自社のツールにデータを入れれば問題のある場所が見やすくなりますというサービスを提供しています。
● セールスイネーブルメントアプローチ ②提案内容からナレッジ型
一方、②の提案内容から入るナレッジ型では、実際の提案の中身から改善することで達成率の向上を目指しますナレッジ型の場合には、営業に同行しながらどんなふうにナレッジが使われているのかを見て、そこで改善ポイントを見つけるということが主流です。
かつてはトップ営業が使った資料をそのまま流用することが一般的でした。しかし、今はその成果が出た提案書を横展開していきましょう、汎用化していきましょうという流れもあります。また、実際に今使っている資料がお客さんにきちんと伝わっているのか、商材の魅力を十分に伝えられているのか、という形でコンテンツの中身自体を少しずつ改善していくやり方もあります。
◆ セールスイネーブルメントの対象をナレッジ、プロセス、マインドとして進める
セールスイネーブルメントでは、ナレッジ・プロセス・マインドで考えていきます。ナレッジ・プロセス・マインドではそれぞれ、個人スキルと組織スキルによって求められるものが異なります。
【ナレッジ】(個人スキル)
課題パターン
提案「シナリオ」
顧客の反応(組織スキル)
共通言語
汎用提案書
事例
【プロセス】(個人スキル)
課題パターン
「シナリオ」を創る思考ステップ
「シナリオ」を実現する行動プロセス(組織スキル)
目標管理
案件管理
行動管理
【マインド】(個人スキル)
顧客発想
先回り発想
目標達成(組織スキル)
チーム発想
再現性への意識
ナレッジシェアへの意識
■ セールスイネーブルメントの結果として得られること
最後に、結果としてセールスイネーブルメントを取り入れることで何が得られるのかを説明します。
まずひとつは、オンボーディングスピードの向上すること。つまり、新しく入ってきた社員たちが戦力化するスピードが上がります。
次に、ナレッジの共有やコンテンツの汎用化が進むことで、ベテランほどうまく提案活動ができていなかった若手営業たちでもベテランと同レベルで提案ができるようになります。商品知識の差や事例に対する理解の差が減っていくので、ベテランに近づくことができます。
最後に、自分の型以外の武器を手に入れることで、自分の型から抜け出せず伸び悩むベテラン営業が、自分の型以外の武器を手に入れることで、見えない天井を突き破れるというメリットもあります。
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